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ルネ・パーペのインタビュー記事「ツァーが誕生する」

Renepape 最近すっかり嵌っているオペラ歌手、ルネ・パーペの興味深いインタビュー記事をご紹介します。

The New York Observer : A Tsar Is Born: Rene Pape Is About to Have His Moment in Boris Godunov

記事は昨年の10月5日付けで、METライブビューイングでも取り上げられた「ボリス・ゴドゥノフ」の公演直前に取材・公開されたものです。

彼のオペラに対する考え方も興味深いですが、特に東ドイツのドレスデン出身の彼が、ベルリンの壁崩壊の時をどんな風に迎えたのかというくだりがいろいろ考えさせられます。

ツァーが誕生する: ルネ・パーペはボリス・ゴドゥノフで、まさに彼の見せ場を持とうとしている

                    by ザカリー・ウールフェ

ルネ・パーペは彼の宝珠を取り落とした。先週、彼はメトロポリタン歌劇場のステージで、豪華に衣装をつけてムソルグスキーのオペラ、ある最初の方のシーンでその題名役が心を悩まし不安で、ツァー(訳注:ロシア皇帝)になる準備をする、ボリス・ゴドゥノフのリハーサルをしていた。

パーペは王笏と宝珠を持ち、取り付かれたような表情を浮かべて群集に短いモノローグを述べる。そして大聖堂に入るために彼が体の向きを変えたとき、彼はよろめき宝珠が彼の手から転がり落ちる。ぞっとするような一瞬の後、ようやくボリスの側近の1人がそれを受け止めようと飛び出し、この事故は意図的なものだったと明らかになった。パーペは先のモノローグにおける感情的な正直さ、身振りの明瞭さを通して、可能性を秘めた愚かな瞬間を驚くほど生き生きとさせた。演技で到達するには難しい効果であろうが、忙しいリハーサルでそれをやったのは驚くべきことだ。

「良い演出家がいれば、本当に、本当に熱中して仕事ができるという感覚になるんだ。」と、堂々とがっちりした体格で深く優雅な訛りのある声のパーペ(46歳)は、最近 The Observer にリンカーンセンター近くのディナー(彼はリゾットをとっていた)の間に語った。「素晴らしいよ。毎日毎日のリハーサルの日が公演なんだ。」

1995年以来、パーペは Met(メトロポリタン歌劇場)に毎シーズン登場し、160公演以上に出演を記録した。彼はカンパニーの仕事をすることによって、今日ではめったにないことにより小さな準主役級の役からキャリアをアップさせていくというような方法を取り、観客や批評家たちのお気に入りの1人となった。だが、このボリスは特別な瞬間だ:バスのレパートリーの頂点で、彼のスターとしての最初の Met の新作であり、このカンパニーが最も愛されるバス(この前の2回の公演におけるジェームス・モリスとサミュエル・レイミー)に与えている。ついに彼は、新聞のフルカラーの広告に載り、すべてが上手くいけば、ボリスはパーペの名声を彼の世代の歌手の中で最も偉大な歌手の1人として確固たるものにするだろう。

月曜日に始まるこのプロダクションには、これまで予期せぬ展開があった。ドイツ人演出家のペーター・シュタインは、どうやらアメリカの就労ビザの確保の難しさに怒ってたった2ヶ月前に手を引いた。彼は、彼の複雑で詳細にわたる役柄の仕事を知るスティーブン・ワーズワースに取って代わられた。

「この新しい演出家のもとで新しい状況だ。」とパーペは言った。「今日、私たちはユニオンが私たちに許しているのよりも長い時間をリハーサルに費やした。私たちはもうちょっと話す必要があったので今晩は遅れてしまったが、素晴らしかった。・・・ 私は今日、スティーブン・ワーズワースと話し合いをして、『どのようにこれを演じられるだろうか。』と言いながら彼を見て、訂正したんだ『どのようにこれを考えられるだろうか。』と。」

パーペがすぐに「知的な」芸術家として思い浮かばないのは、たぶん彼の声があまりに圧倒的に官能的で確固たる豊かさの楽器だからなのだろう。混じりけのない声の美しさは、いかに本当に思慮深い描写か、ひとつひとつの言葉がいかによく考えられているか、ということを忘れさせることができる。彼は、特に彼のレパートリーである葛藤がある神たちや傷ついた王たち:脆さを持った権力と優しさの混合 - を非常に上手く卓越したオペラ的な声にしている。Metにおけるワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の上演の彼のマルケ王では、大掛かりな効果も、わめくことやすすり泣くこともなく、ただ真実さが彼の役の感情を作っているように見え、オペラが可能にする方法で個性的であると同時に原型的である。ワレリー・ゲルギエフ指揮による、マリーンスキー劇場のワーグナーの「パルジファル」の新しい録音では、パーペの「聖金曜日の奇跡」は何気なく、ほとんど会話のような親しさで始まり、苦もなく大きな音の波に上昇する。

「私はあらゆることについて考えると同時に何も考えない。」と彼は言った。「馬鹿みたいに聞こえるよね?『1600年代のロシアの歴史について取り組んで、ニューヨークで歌っている、これこれのキャリアを持っている、46歳の東ドイツの男だ。』ということについて考えるかもしれないけれど、私はただ、この上演に来た観客たちに満足してもらいたい、そして私に出来る限りこの物語を語りたいと思っているだけなんだ。私は毎晩ドストエフスキーやプーシキンを研究しているわけではない。それは不可能だ。ただ音楽を作るだけだ。」

パーペは1964年にドレスデンで生まれた。彼の母は美容師で父はシェフだった。彼の両親は彼がとても小さい時に離婚し、彼は大部分は祖母のもとで育った。彼は市の有名な少年合唱団(「私はとても良いボーイソプラノだったんだよ。」と彼は言った。)で歌い、「魔笛」に3人の少年の1人として出演さえした。(間違いなく、ザラストロを歌うようになったごく少数の1人だ。)

彼は1976年の「キャバレー」の東ドイツ初演時のキャストで、そこで“Tomorrow Belongs to Me”を歌う若いナチを演じ、80年代の初めにドレスデン音楽学校で学び始めた時に初めて本当にオペラを知り、1988年にベルリン国立歌劇場に参加した。

夕食が終わり、最初、彼は東ドイツに住んでいたことが、政治的な大変動についてのオペラ、ボリスの仕事に影響したことを否定していた。(学校でロシア語を勉強せざるを得なかった時に猛勉強したことが役に立ったかもしれないと彼は認めた。)だがベルリンの壁の崩壊について話が及んだとき、彼の声はほとんどかすれた。

「私はドレスデンにいた。」と彼は言った。「そして私達はお互いに『聞いた? ベルリンで何が起こったんだ? よし行こう!』と電話しあった。そして私達のトラバント(訳注:東ドイツ製の乗用車。ボディがFRPだったので、紙とプラスチックでできていると揶揄された。)に飛び乗るとベルリンに運転していった。」

もしも『人生でもっとも素晴らしかった瞬間は?』という質問をされたら、これだと言うだろう。このチャンスを得たこと、この感覚を持ったこと。私達は号泣した、私達全員が悲しみではなく愛と喜びでね。もしも幸福のせいで1時間かそれ以上泣くことができたら、それは経験できた中で最高のものだ。東ドイツで大人になるということは、なにも期待しないということだ。だから、すべては1989年より後にきた、すべての一つ一つの瞬間が、毎日が、すべての旅行が贈り物なんだ。

“Tomorrow Belongs to Me”のデビューからほとんど35年になるが、バスの成長は遅く、パーペは今脂が乗ってきていて、まさにニューヨークの聴衆たちを永遠に捕らえようというところだ。

「40歳ぐらいになるまで待つ必要がある。」と彼は言った。「それからバスの声は本当に安定する。... 人生の経験、技術的な経験、仕事の経験をある程度して、そして、その課題について考えずにただ音楽を与えることができるある地点に到達する。ただどうやって人々を泣かせ、笑わせるかを考え、人々が5時間の、来て、聞いて、見る経験をするオペラハウスから外に出るのに、彼らを幸せに家に帰らせたいと思う。私はそれを届けている。私は配達人なんだ。」

インタビューの中に出てくるキャバレーの “Tomorrow Belongs to Me” はこんな曲です。

パーペの経歴を見ると、音楽学校に入学した当初はテノールだったのだそうです。次第に声域が下がっていって、今では Black Diamond(日本語では「漆黒のダイヤ」なんていうキャッチフレーズに)とも称されるツヤと輝きのある素晴らしいバスに。
それにしても、今の彼の姿からボーイソプラノだった姿を想像するのはかなり困難ですね。coldsweats01

ちょうど音楽学校を卒業して本格的にオペラを歌い始める頃にベルリンの壁が崩壊して、西側への世界が開けたということが、彼の経歴の上では非常にタイミングが良く、重要な転機となったのでしょう。

ちなみにMETの「ボリス・ゴドゥノフ」の一節は YouTube のこちらで見ることができます。

twitter/punkt_ochibo

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