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アラトリステ原作本より(その6・最終回)

(その5)からすっかり間があいてしまいましたが、スペインのアラトリステのファンサイト Capitan-Alatriste の英語のフォーラムで、doctor-Qさんが英語に訳してくださった、原作1巻目・冒頭部分のご紹介の第6弾、最終回です。

最終回は、身だしなみを整え終えたアラトリステが、イニーゴを連れて居酒屋へ向かうところから。
イニーゴがアンヘリカと運命の出会いをします。

それ以上何も言わずに、彼は私の前を階下に降りていき、トレド通りをトルコ風居酒屋まで下っていった。彼はマントを羽織らず、日の当たる側を頭を高く上げて歩いた。擦り切れた赤い羽根が帽子にささり、その広い帽子のつばは知人にちょっと挨拶する時に触られ、また、別のしかるべき品位のご婦人連れの前を横切る時にはその帽子は取られた。私は上の空で彼の後に従い、腕白小僧たちが通りで遊んでいるのを、ポーチにいる野菜の露天商人を、イエズス会の教会の横で日光浴をしながら仕事もなくおしゃべりをしている人たちの輪を見た。私はもはや純真無垢すぎるわけでもなく、これらの隣人達の間で2ヶ月間過ごしたことは、私を大人にするのにとても役に立ったとはいえ、まだまだ子供で若く好奇心が強く、目を大きく見開いて何一つ世界を見落とさないようにしようとしていた。

私は私達の後ろから来る、2頭のラバのひづめの音と4輪馬車の車輪の音を聞いた。最初、私はあまり注意を払っていなかった。なぜなら、この通りはマヨール広場と王宮を結んでいたので、馬車や荷車の往来はいつものことだったからだ。しかし、ちょうど馬車が私の隣に来たその瞬間に私は顔を上げた。そして私は紋章のないドアと、窓の中の、波打つ巻き毛の金髪で、今までの人生で見た中で、もっとも青く、もっとも澄んだ、そしてもっとも心をかき乱される眼差しの少女の顔に気がついた。その目は、一瞬私の目と交錯したが、馬車の動きによって運ばれて通りを下り消えていった。私は震えていた。なぜかはまだ良く分からなかった。だが、もし、私が悪魔に見られたのだと知っていたなら、その震えはもっと激しかっただろう。


そしてこの後、居酒屋でのシーンがつづき、物語はいよいよ本題に入っていきます。
アラトリステ原作本1巻目の導入部分のご紹介は、ここまでといたします。
長々とおつきあいくださり、ありがとうございました。

今回の記事の参考にさせていただいた、doctor-Qさんの英訳は、こちらでご覧いただけます。やはり同じものが Viggo-Works の Forum にも転載されています。


<日本語訳についてのメモ>

今回、この小説の一部分を試しに翻訳してみるに当たって、語り手のイニーゴの一人称や文体をどうするか、いろいろ考えました。ニュース記事だったら、たいして悩むことはないんですけどね。
かなり昔を回想していると思われる文章であること。ちょっとシニカルな言い回しがあることなどから、語り手のイニーゴは、初老かもっと年を取った、激動の経験をした男性だろうと想像しました。イニーゴの一人称を「私」としたのはそのためです。
また、今回は、その部分を直接日本語に訳しはしなかったのですが、英訳の文章の中に、語り手が Your Worships(閣下)と呼びかけるところが2箇所あり、どうやら聞き手が目上の身分ある(しかも多分若い)人らしいということもわかりました。
そこで、いったんは文章全体を敬体(です、ます調)でまとめかけたのですが、どうも語り口が弱くなってしまいますし、制作発表の時のニュース映像や、CQCのビデオに登場する、原作者の Arturo Perez-Reverte を見ていて、この人が書く文章ならば絶対にハードボイルド調だろうという感じがしたので(笑)、最終的に今の文体にしてみました。

原作全体を知っていれば悩みもしないのでしょうが、スペイン語の原文を読めるわけでもなく、ひたすら推理力と想像力で補って訳してみたものなので、的外れだったら笑ってやってください。

アラトリステの日本語訳が出版されるのが一番嬉しいのですが、とりあえず、今年の5月に初めての英訳本(1巻目:Captain Alatriste)がアメリカで出版される予定です。日本のアマゾンでもUSのアマゾンでも予約を受付けています。

また、原作者のアルトゥーロ・ペレス・レベルテの本は日本では集英社から出版されている作品が、ナインスゲート(単行本の題は「呪のデュマ倶楽部」映画化にあわせて文庫は改題)、フランドルの呪画(のろいえ)サンタ・クルスの真珠の3種類あります。
ナインスゲートはジョニー・デップ主演で映画化されているんですね。
アラトリステの日本語版は、日本での映画公開が決まったら集英社から出る可能性が大きいような気がするんですが、どうでしょうか。

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アラトリステ」カテゴリの記事

コメント

punktさんお知らせしてくださって有難うございます。そしてその6の訳を有難うございます。その1から楽しませていただき感謝します。私のサイトでも紹介させてくださいね。
特に「日本語訳についてのメモ」を読ませて頂きましたがpunktさんの邦訳に対する考えや心構え、時代考証なんど私などでは伺い知れない苦労があったのですね。人に訳したものを見せる行為がとても大変なことだと改めて教えていただき有難うございました。

投稿: Miki | 2005.03.27 19:46

Mikiさん
いつもサイトで紹介してくださってありがとうございます。
「日本語訳についてのメモ」は、ほとんど言い訳みたいなものなんです。しょせんは英語からの二重訳で、勝手に勘違いしているところもあると思いますので「だいたい原作って、こんなようなことが書いてあるのね」という程度に参考にしていただければ、と思います。
後になって、見直して冷や汗というところが出てきそうで恐ろしいです。

投稿: punkt | 2005.03.27 22:19

はじめまして。こっそり「アラトリステ原作本より」を楽しみに拝見させていただいておりました。スペイン語どころか、英語もまったく理解不能な私としては、大好きなヴィゴのことも、こうして日本語に訳して紹介してくださる方々が頼みの綱です。ありがとうございます。今回の「アラトリステ」は、ヴィゴ抜きでも、物語に大変興味を持ちました。実は、ヴィゴに限らず、好きなものを寄せ集めたサイトを作っていますので、勝手に紹介させていただきました。私のように「アラトリステ」読んでみたい~と思う人が、きっといると思うので。(ほとんど知り合いしか見てないサイトですけど。)
映画日記の閑話休題3月のコーナー⇒http://www.geocities.jp/hidanokaeru/dvd/kan03.htmlにて、ご紹介させていただきました。どうもありがとうございました。

投稿: ERUN | 2005.03.29 13:01

ERUNさん
ようこそ、はじめまして。
サイトでご紹介いただき、ありがとうございます。
アラトリステの原作、とても面白そうですよね。
私も、英語に訳していただいたものを読んだ時に、これは面白そうだから、なんとかみなさんに紹介したい、と思って少し頑張ってみました。
ぜひ、日本語版の本も出版して欲しいですよね。

投稿: punkt | 2005.03.29 23:23

はじめまして。ヴィゴの映画の原作を原文で読みたい!という情熱から、「アラトリステ」の1巻目の西語版を無謀にも買ってしまいました。
最初のページからもう躓いてますが、punktさんの冒頭部分の邦訳のおかげで、また読む気が湧いてきました。感謝です。

投稿: jimadora | 2005.03.31 12:58

jimadoraさん
すごい! スペイン語原作にチャレンジされてるんですね。
こんな拙い訳でも、お役に立てたのなら嬉しいです。

投稿: punkt | 2005.03.31 22:23

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